溶接

【SUS316L配管溶接】一方向多分岐パイプ(65A Sch40)の歪み制御とPT検査手法


【SUS316L配管溶接】一方向多分岐パイプ(65A Sch40)の歪み制御とPT検査手法

ものづくりだより424号

おはようございます。溶接管理技術者の上村昌也です。

先日、いつもお世話になっている同業者様から「自社工場だけでは手が足りないため、助けてほしい」とご依頼をいただきました。

納期調整についてご相談したところ、快くご了承いただけたため、材料調達から製作まで一貫して担当させていただくことになりました。

今回の材料は、SUS316L 65AS40シームレスパイプ。 サイズが長いため、高価な材料です。再製作とならないよう、慎重に材料を手配し、作業を進めていきました。

今回の案件で特に難しかったのが、画像にもあるように、主管から9つも枝管が出ている形状です。
一方向からの溶接となるため、溶接変形がかなり発生します。 事前に対策を講じないと、大変なことになってしまいます。
例えば、逆歪みを加えたり、ジグで拘束するなどの対策が考えられます。

しかし、どんなに対策を講じても、歪みは必ず発生するものです。 あまり考えすぎていても作業が進まないので、ある程度のところで決断し、作業を進めていくしかありません。

様々な対策を講じましたが、案の定、溶接による歪みがかなり発生してしまいました。
このままでは納品できないため、歪み取りを少しずつ行いながら、慎重に作業を進め、なんとか完成に漕ぎ着けました。

歪んだ製品を修正し、綺麗に仕上げることができた時は、やはり大きな達成感がありますね。

「ものづくりは細部に神が宿る」と言いますが、まさにその通りだと感じます。

溶接組立後、浸透探傷試験(PT)にて品質を確認し、無事納品となりました。

SUS316L多分岐シームレス配管で「歪み」が避けられない理由

主管に対して一方向から枝管を連続して溶接する構造では、溶接入熱が片側へ偏りやすく、冷却収縮が長手方向に累積しやすくなります。
結果として、弓なりの反り(曲がり)や、枝管ピッチの累積ズレが表面化しやすく、組立工程や据付側で重大な手戻りにつながります。

  • 反り(弓状変形):溶接側の収縮が累積し、主管が弓なりに曲がる
  • ピッチ累積ズレ:枝管の位置が連鎖的にズレ、最終的に合わなくなる
  • ねじれ:拘束条件・入熱の偏りでねじれが出ることもある(※本件では数値は不明)

本件の「実測」:最大反り15mm/ピッチ最大ズレ3mm → 最終±1mmへ

本件では、デメラー上で拘束し、逆歪み等の対策を講じたうえで工程を進めましたが、それでも溶接後には歪みが発生しました。
実測としては、溶接後の最大反り(たわみ)は15mm、枝管ピッチの最大ズレは3mmとなりました。

そこで「拘束で抑え込む範囲」と「歪み取りへ移行する範囲」を切り分けるため、現場の判断基準として反り2mmを境界に運用し、最終的に±1mm以内へ収めて合格させています。

状態 優先手段 判断基準(しきい値) 狙い
反りが小さい 拘束+順序+逆歪の範囲で抑える 反り2mm以内 歪みの増加を“止める”
反りが増え始める 拘束の見直し/工程判断(歪み取りへ) 反り2mm超 無理な押さえ込みで別の歪みへ波及させない
反りが大きい 段階的な歪み取りで仕上げる 最終目標:±1mm 合否の物差しに合わせて“確実に合格させる”

対策の要点:真ん中→端の順序/枝管と反対方向へ押し付ける逆歪/デメラー両サイド拘束

溶接順序は「真ん中から端に向かって」

枝管が一方向に並ぶ場合、同じ方向へ連続して進めるほど収縮が累積し、反りが増える方向に歪みが育ちます。
そのため本件では、溶接順序は「真ん中から端に向かって」進め、収縮の累積を分散させる考え方で工程を組みました。

逆歪:枝管を取り付ける反対方向に押し付ける(推定:5mm程度)

逆歪は、溶接後に出る反り方向を見越して、あらかじめ反対方向へ「逸らす(押し付ける)」ことで戻り代を確保する手法です。
本件では、枝管を取り付ける方向の反対方向に押し付ける形で逆歪を与えました。

押し付け量は当時の記録が残っていないため推定(目安)となりますが、現場感としては約5mm程度反対方向へ逸らした記憶です。
重要なのは数値そのものより、「溶接後に戻る方向」を先に見越して戻り代を用意するという考え方になります。

拘束:デメラーで両サイドを抑える

逆歪を与えた状態で、デメラー上で主管の両サイドを抑えることで、溶接中にワークが自由に動いて歪みが暴れないように管理します。
ただし、拘束を強めれば歪みが完全に消えるわけではないため、前述のとおり反り2mmを境界に「拘束で抑える範囲」と「歪み取りへ移行する範囲」を切り分けて進めました。

図面不足・仕様未確定でも大丈夫です。
「決める順番」を整理し、割れ・歪み・段取りの論点を見える化します。

写真(全体+アップ)と、困っている症状だけでもOKです。

歪み取り(段階的に少しずつ)→ 最終仕上げで合格へ

様々な対策を講じましたが、案の定、溶接による歪みがかなり発生してしまいました。
このままでは納品できないため、歪み取りを少しずつ行いながら、慎重に作業を進め、なんとか完成に漕ぎ着けました。

歪み取りは「やりすぎ」が別の不具合(座屈・局部変形・残留応力の偏り)を誘発するリスクもあるため、現場では測定と修正を繰り返しながら、段階的に詰めていきます。
本件も同様に、少しずつ歪み取りを進め、最終的に±1mm以内の合否基準へ収めました。

PTは「歪み取り後」に実施:表面開口欠陥を潰して品質を担保

溶接組立・寸法修正後、表面欠陥(クラックや表面に開口したピンホール等)の有無を確認するため、浸透探傷試験(PT:Penetrant Testing)を実施しました。
本件ではPTを歪み取り後に実施し、用途上の不具合(漏れや耐圧トラブルにつながる起点)を残さないことを狙っています。

参考サイト

マークテックさんのサイト(浸透探傷試験とは)

https://www.marktec.co.jp/lecture/tabid/252/Default.aspx

SUS316Lシームレスパイプの多分岐溶接品(主管から枝管が多数出る構造)。一方向連続溶接で歪みが出やすい代表例。
SUS316Lシームレスパイプの多分岐溶接品。枝管が一方向に並ぶ構造は反り・ピッチズレが累積しやすく、工程設計(順序・逆歪・拘束・歪み取り基準)が重要になります。
多分岐配管の溶接後外観。歪み取り後に寸法を追い込み、PTで表面欠陥の有無を確認して納品する工程を示す。
歪み取りで最終寸法へ追い込み後、PT(浸透探傷)で表面開口欠陥を確認して品質を担保します。見た目の良さだけでなく、工程として再現性を持たせるのがポイントです。

FAQ:多分岐シームレスパイプ溶接の歪みと品質保証

Q. 多分岐配管の歪みは「ゼロ」にできますか?

物理的には難しいケースが多いです。そのため本件では「拘束で抑える範囲」と「歪み取りで仕上げる範囲」を切り分け、判断基準(反り2mm)を設けて合否へ持っていく運用としました。

Q. なぜ「真ん中から端へ」の順序が効くのですか?

片側へ連続して進めると、収縮が同じ方向へ累積して反りが育ちます。中央起点にすることで収縮の累積を分散し、歪みの偏りを抑えやすくなります。

Q. 逆歪(押し付け)はどのくらい掛けるべきですか?

形状・拘束条件・入熱で変動します。本件では押し付け量は推定(目安)で約5mm程度ですが、数値よりも「戻り(収縮)方向を先読みして戻り代を用意する」考え方が重要になります。

Q. PTはいつ実施するのが良いですか?

本件では歪み取り後に実施しました。歪み取り工程で応力状態が変化することもあるため、最終寸法へ追い込んだ後に表面開口欠陥(クラック、ピンホール等)を確認し、品質保証の取りこぼしを防ぐ狙いがあります。

免責事項

本記事は一般的な技術情報と現場知見に基づく解説です。実際の最適条件は、材質・寸法・拘束条件・要求品質・検査要件により変動します。安全対策(換気・保護具等)を徹底のうえ、必要に応じて専門家へご相談ください。

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図面不足・仕様未確定でも大丈夫です。
「決める順番」を整理し、割れ・歪み・段取りの論点を見える化します。

  • 現状写真(全体+溶接部アップ)
  • 材質・板厚(不明なら推定でもOK)
  • 困っている症状(割れ/歪み/ブローホール等)
  • 求める条件(気密・精度・外観・コスト・納期の優先順位)

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