最近こんな本を読みました。
コンテナという箱が、世界の物流を一変させた話です。発明したのは、トラック運送会社の経営者・マルコム・マクリーンでした。「陸で運ぶものを、そのまま箱ごと船に載せればいい」——その発想が、20世紀最大のイノベーションと呼ばれるほどの革命になりました。
ただ、この話には続きがあります。世界を変えた男は、原油価格の読み違いという戦略ミスで会社を潰しています。発明の天才と、経営の判断は別物だ、とあらためて思いました。
現場を知っている人間だからこそ見える課題がある。でも、「仕組みを作ること」と「その仕組みをどう動かすか」は、また別の話です。
精密板金・溶接の段取りも、同じ構造だと思っています。
ものづくりだより 528 号(製作事例)
おはようございます。株式会社上村製作所の上村昌也です。
「発注先が変わったら、治具の再現が取れなくなった」——
試作スケジュールの中盤でそれが起きると、データの連続性が崩れ、
前工程の検証からやり直しになります。
今回お伝えするのは、上村製作所がデメラー(Demmeler)社製 3D溶接定盤(D16)を導入した経緯と、
段取りを「勘から座標へ」切り替えることで何が変わったか、という現場の記録です。
設計意図を正確に形にするための「仕組みの話」として、参考にしていただければ幸いです。
📌 この記事でわかること
- 段取りの属人化が「品質・納期・再現性」を不安定化させる構造的な理由
- 座標基準のない定盤では、なぜ毎回ゼロから段取りを組む羽目になるのか
- デメラー3D定盤が「勘→座標管理」へ切り替える仕組みの考え方
- D16/D22/D28のグリッド差と、当社がD16を選んだ判断の根拠
- 導入後の注意点と、投資判断を”説明できる形”で残す効果測定テンプレ

段取りの属人化(課題)→基準の欠如(原因)→デメラーD16導入(解決策)→再現性・ミス削減(導入効果)。
4つの視点で「勘から座標へ」の考え方を整理した図解です。
目次(クリックで開閉)
よくある課題|段取りの属人化が現場を蝕む構造
溶接の現場で工数を最も奪うのは、溶接そのものではありません。
水平・直角・位置決めを出す段取りが、時間とエラーの温床になっています。
そしてその段取りが属人化していると、品質と納期はどうしても不安定になります。
- 担当者が変わると、微妙に寸法が揺れる
- リピート品で「前回の再現」に苦労し、検証データの連続性が切れる
- 角度合わせに時間が溶け、試作スケジュールが後ろ倒しになる
こうなると最終的には「職人の勘で何とかする」という構造になります。
しかし、設計意図を正確に再現するためには、精神論ではなく仕組みの話として整理する必要があります。
原因|基準(座標)がないと、毎回ゼロから組む羽目になる
問題の根はシンプルです。
基準(原点・座標)がないため、段取りを毎回ゼロから組む構造になっているのです。
- 定盤そのものに座標がなく、メジャー計測の手作業が増える
- 精度が人の集中力・体調に依存し、再現性が揺れる
- 固定具(ジグ)が規格化されず、毎回「積み木」になりやすい
したがって必要なのは「頑張って精度を出す」ことではなく、
誰が段取りしても設計意図が再現できる仕組み(道具)の導入という考え方です。
解決策|デメラー3D定盤で「座標管理」に切り替える
①【座標の力】精度が”勝手に出る”仕組み
デメラーの盤面は、穴がグリッド状(碁盤の目)に配置されています。
このグリッドを基準にクランプ・アングルを組むことで、直角・水平・位置決めが「努力」ではなく「仕組み」として出せます。
精度は職人の腕だけでなく、定盤の座標系が支える構造になります。
②【ポカヨケ】物理的な”プログラム”による再現性
一度ジグの位置を記録してしまえば、それは物理的なプログラムです。
2個目も3個目も、部品を置いてクランプするだけで同じ位置に来ます。
メジャー計測が減るため、読み違い・当て方の癖・勘違いといったヒューマンエラーが起きにくくなります。
③【時短】段取り時間の削減が”利益”と”試作精度”に直結する
溶接仕事の大半の工数は段取りです。当社の現場感として、ここが一番効きました。
「探す・迷う・直す」が減り、職人が本来の価値である溶接作業に集中できるようになります。

担当者が変わっても同じ精度が再現できる環境が整います。
上村製作所がD16を選んだ理由|精密部品×機動力の最適解
上村製作所が導入した規格はD16です。
当社の仕事(精密部品・治具・板金溶接)に対して、サイズと機動力のバランスが最も合っていたためです。
当社の運用上の整理では、D16およびD22はグリッド(穴ピッチ)が50×50mmで、
細かい位置決めの自由度が現場に合います。
一方でD28は100×100mmとなり、固定点の取り方が大きく変わります。
- 手頃なサイズで扱いやすい(段取り替えが速い)
- 精密部品の位置決め・再現性に使いやすい
- 軽量で取り回し・レイアウト変更がしやすい(一人現場に効く)
「小さい=剛性が弱い」と思われがちですが、当社の作業範囲ではそうは感じていません。
重要なのは大きさそのものではなく、用途に対して必要な剛性と運用性のバランスという考え方です。
補足|D22は50グリッド、D28は100グリッド(誤解されやすい点)
誤解が出やすい箇所なので、当社の運用上の整理として明記しておきます。
当社の理解では、D16とD22はグリッド(穴ピッチ)が50×50mm、
D28は100×100mmです。
D28(100×100mmグリッド)の場合|固定点が「粗くなる」局面がある
D28は100×100mmグリッドのため、精密部品や比較的小さめの治具が中心の現場では、
「思った位置にクランプを置きにくい」局面が出やすい傾向があります。
当社の用途ではD16(50×50mm)の方が段取りを組みやすい、という結論になりました。
D22(50×50mmグリッド)の場合|ピッチではなく「運用の重さ・過不足」を検討する
D22は当社の整理では50×50mmグリッドです。したがってD16との比較ポイントは「ピッチ」ではなく、
設備投資の大きさや日々の扱い勝手(運用の軽さ・段取り替えの機動力)といった要素になります。
当社の仕事レンジでは、まずD16で段取りの標準化(座標管理)を確立し、
効果を安定させる判断が合理的でした。
ただし、重量物・長尺ワーク・固定点数が多い治具構成など、
作業内容によってはD22やD28が合理的なケースも十分にあります。
導入時は「自社のワークサイズ・重量・求める位置決め自由度・運用体制」に合わせて
検討するのが正解と考えています。
現場のリアル|導入後に気をつけた注意点も書いておきます
良いことだけを書いた記事は、現場の方ほど見抜きます。
導入後に実際に気をつけた点も、正直に整理しておきます。
- 小物が穴に落ちる:ボルトや小片の置き場(箱・皿)を先に決めておく
- スパッタと清掃:使いっぱなしにせず、清掃ルール(週1/月1など)を決める
- 最初の1回目は慣れが必要:まずリピート品から始めるとメリットが出やすい
効果測定の型|”体感”ではなく、再現できる記録を残す
設備投資の評価は、印象や気分ではブレます。
当社では、段取り改善の効果を「説明できる形」で残すために、
案件ごとに最低限の記録を取る方針をとっています。
社内でそのまま使える簡易テンプレを置きます。
効果測定テンプレ(コピペで運用)
- 対象ワーク:____(例:フレーム/架台/治具)
- 工程:段取り → 仮付け → 溶接 → 測定
- 記録項目:段取り時間(分)/手直し回数(回)/寸法逸脱(有・無)
- 比較:導入前(従来定盤) vs 導入後(3D定盤)
- 結果:____(例:段取り__→__、手直し__回→__回 等)
※本記事時点では数値は未測定です。今後、案件ごとの実測を整理し、根拠が整ったものから追記します。
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よくある質問(FAQ)
Q1. D16/D22/D28で、グリッド(穴ピッチ)はどう違いますか?
当社の運用上の整理では、D16とD22は50×50mm、D28は100×100mmのグリッドになります。
ピッチが変わるとクランプ位置の自由度や治具の組み方が変わるため、用途に合う規格選定が重要という考え方です。
Q2. なぜD22/D28ではなくD16を選んだのですか?
当社は精密部品や比較的小さめの治具が多く、位置決めの自由度と取り回しを重視しています。
D28の100×100mmピッチは固定点が粗くなりやすく、D22との比較はピッチではなく運用の軽さの話になります。
そのため、まずD16(50×50mm)から段取りの標準化を進めました。
Q3. 機密保持(NDA)の対応は可能ですか?
はい、対応可能です。図面や仕様データの取り扱いについては、
ご相談の際にご要望をお伝えください。
NDA締結後に詳細をお伺いする形で進めることができます。
Q4. ミルシート(材料証明書)の提出は可能ですか?
対応可能なケースが多いです。材質・規格・納品条件によって変わりますので、
ご発注時にご要件をお伝えいただければ、確認の上お答えします。
Q5. D16は小さい分、剛性不足になりませんか?
当社の結論は「用途次第」です。当社の作業範囲(精密部品・治具・板金溶接)では
剛性不足は感じていません。重量物・長尺ワーク・固定点数が多い構成であれば、
D22/D28も含めて検討するのが合理的と考えています。
Q6. 導入コストに対して、費用対効果はありますか?
初期投資は必要です。ただし回収の考え方はシンプルで、削れるのは段取り時間と
手直し時間です。記事内の「効果測定テンプレ」で実測を積み上げると、
投資判断を現場の言葉で説明できるようになります。
まとめ|あなたの設計意図を、「仕組み」で守り抜く
デメラー3D定盤(D16)の導入で、上村製作所の段取りはこう変わりました。
段取りが「勘」から「座標」になり、再現性が上がり、ミスの芽が減りました。
職人の勘は大切です。しかし、あなたの設計意図を正確に形にするためには、
品質保証を勘だけに背負わせない仕組みが現場を強くします。
図面に込めたデータの連続性と再現性を守るのは、溶接の腕だけでなく、
段取りの「仕組み」が支えてくれるという考え方です。
著作権及び免責事項
本記事は一般的な技術情報と現場知見に基づく解説です。最適条件は、材質・板厚・形状・拘束条件・
要求品質(検査条件)により変動します。安全対策(換気・保護具等)を徹底のうえ、
必要に応じて専門家へご相談ください。
当サイトの著作物・知的財産は上村昌也に帰属します(無断転載禁止)。
図面不足・仕様未確定でも大丈夫です。
「決める順番」を整理し、割れ・歪み・段取りの論点を見える化します。
- 現状写真(全体+溶接部アップ)
- 材質・板厚(不明なら推定でもOK)
- 困っている症状(割れ/歪み/ブローホール等)
- 求める条件(気密・精度・外観・コスト・納期の優先順位)
※もしご要件に近い案件があれば、図面を添付の上、気軽にご相談ください
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