ものづくりだより531号(製作事例)
おはようございます。株式会社上村製作所の上村昌也です。
「ステンレス製のトレーを作ってほしい。部品を入れるので、絶対にオイル漏れが起きないように気密溶接で。」
今回のご依頼は、SUS304 t=1.5mm、サイズは550×360×180のオイルトレー製作です。
一見ただの箱に見えますが、油用途は“微細欠陥が顕在化しやすい”のが現場のリアルです。
油は水より表面張力が低いケースが多く、継手の毛細管(すきま)に入り込みやすいため、ピンホール/未溶融合/クレーターのわずかな不連続が、ライン汚染や転倒リスク(滑り)に直結します。
本記事では、読者の悩み(油漏れリスク)に対し、現場がどのように「漏れの起点を作らない」設計・段取り・溶接・検査を組み立てたかを、課題解決型で整理します。研究所・装置メーカー様のように「仕様が厳しい」「少量でも確実性が欲しい」現場で、そのまま使える考え方に落とし込みます。
1. 悩み:なぜトレーの油漏れが厄介なのか
部品を一時保管・搬送するトレーにおいて、微細なオイル漏れは現場にとって非常に厄介な問題です。
- 床や搬送台車への付着によるスリップ事故のリスク
- 他のクリーンな製品への二次汚染(外観不良・洗浄再作業)
- 清掃工数の増加と、現場環境の悪化(段取り遅延・稼働率低下)
重要なのは、「溶接ビードがつながって見える」ことではありません。
油漏れ対策は、板金形状と溶接の両面から“漏れの通り道(毛細管)を作らない”工程設計が必要になります。
2. 原因:漏れが起きやすいポイント(板金×溶接)
気密性が崩れる原因は、作業者の腕だけではありません。箱物(トレー)は構造的に、漏れの起点が生まれやすいポイントが決まっています。
- 角部(コーナー):3面が集まるため、始端・終端の処理が甘いとピンホールが出やすい
- 合わせのすきま(ルートギャップ):曲げ・直角度の誤差がすきまに直結し、毛細管が成立する
- 未溶融合/溶け込み不足:表面はつながって見えても、ルート側が連続して塞がっていないと微細漏れの起点になる
- 汚れ(油分・研磨粉):脱脂不足はブローホールを招き、気密不良の典型原因となる
- 歪み:t=1.5は熱影響で変形しやすく、溶接中に口が開く→合わせ不良→欠陥誘発の連鎖が起こりやすい
つまり、表面的な溶接テクニックだけでなく、板金精度 → 拘束 → 熱の入れ方 → ルートの連続性 → 検査までを一気通貫で設計することが、漏れゼロの最短ルートになります。
3. 解決策:SUS304 t1.5で気密性を確保する工程設計
今回のように「油漏れを起こさない」ことが目的の場合、ポイントは連続溶接だけではありません。
隙間・歪み・裏波(ルートの連続)をセットで管理して、再現性を作ります。
① まず“隙間を作らない”合わせを優先します
気密性の大半は、溶接前の合わせ精度で決まります。曲げ角度補正・直角度・ツライチを詰め、溶接部にすきまが出ない状態(実質ゼロタッチ)を作ります。
板金側の成立性が高いほど、溶接で無理に埋める必要がなくなり、ピンホール・割れ・歪みの再発が抑えられます。
② t=1.5の歪みを抑えます(=漏れゼロの再現性を上げます)
薄板は歪みやすく、歪みは合わせ不良や微細クラックの原因になります。
そのため、治具での拘束、仮付け位置と数、溶接順序(対角・分散・戻り)を先に決め、熱を一箇所に集中させない段取りを組みます。
「歪みが少ない」は見た目の話ではなく、ルートの連続性が途切れないという意味で、気密そのものに効きます。
③ 重要:内側コーナーの「裏波(裏ビード)」を狙って管理します
ここが最大のポイントです。
気密性を狙う場合、表面の連続ビードだけでなく、継手のルート側(裏側)が連続して塞がっていることが必須条件になります。
本件では、内側コーナー部で裏波(裏ビード)が均一に出る状態を狙い、角部からの微細漏れリスクを物理的に遮断します。
4. 品質保証:合否基準・検査・記録の考え方
研究所・装置メーカー様、大手製造業の現場で重要視されるのは、「うまくできた」ではなく“合否が説明できる”ことです。
気密トレーは特に、検査条件(何でOKとするか)を先に合意しておくと、手戻りが激減します。
検査方法は「用途」と「漏れ許容」に合わせて選びます
- 外観検査(VT):始端終端・角部・クレーターの有無を重点確認
- 浸透探傷(PT):微細割れや表面開口欠陥を確認したい場合に有効(必要時)
- 漏れ確認:水張り、加圧保持、石鹸水による発泡確認など、要求レベルに応じて方法を選択(※条件は事前協議)
大手が安心する「記録の整備」も対応領域です
ご要望があれば、仕様・検査条件に沿って工程の要点を記録し、再現性のある形で納品できます(例:工程写真、検査結果の簡易記録、注意点の申し送り)。
少量試作でも「次も同じ品質で作れる」状態に寄せることが、外注選定の決め手になります。
5. 進め方:確認事項と製作フロー
- 用途確認:入れる部品、油種、温度帯、清掃方法、搬送条件、漏れ許容(ゼロか、微量許容か)。
- 仕様確認:材質SUS304、板厚t=1.5、サイズ550×360×180、取っ手穴の有無、角Rや補強の可否。
- 成立性確認:歪み・すきまが出やすい箇所を特定し、必要なら展開図レベルで提案(溶接線の置き方も含む)。
- 製作:曲げ→合わせ→仮付け→治具固定→連続溶接(気密前提の始終端処理・角部処理)。
- 確認:寸法検査+合意した検査条件に基づく漏れ確認。
6. 製作事例:550×360×180 気密溶接トレー(SUS304 t=1.5)
今回のトレーは、部品保管時の油漏れ対策が主目的です。箱物は、角部・合わせ部・開口周りが弱点になりやすいため、隙間管理と歪み対策、始終端処理まで含めて「漏れの起点を作らない」段取りで製作しました。



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よくある質問(FAQ)
Q1. SUS304 t=1.5でも「漏れない」トレーにできますか?
可能です。ただし気密性は溶接条件だけでなく、合わせ精度(すきま管理)・歪み管理・角部の始終端処理・ルート側の連続性が支配します。用途と要求レベルを確認したうえで工程設計いたします。
Q2. オイル漏れは、だいたいどこから出ますか?
角部(コーナー)、始端・終端、合わせのすきまに起因するピンホールが多いです。薄板は歪みで口が開きやすいため、治具拘束と溶接順序も含めて対策します。
Q3. 気密溶接では「裏波(裏ビード)」は重要ですか?
非常に重要です。表面が連続していても、ルート側(裏側)が連続して塞がっていないと微細漏れの起点になります。角部ほど差が出ます。
Q4. 検査は何をやれば安心ですか?
用途と漏れ許容で最適解が変わります。外観検査(VT)を基本に、必要に応じて浸透探傷(PT)や、合意した条件での漏れ確認(水張り・加圧保持等)を組み合わせるのが実務的です。
著作権及び免責事項
本記事は一般的な技術情報と現場知見に基づく解説です。最適条件は、材質・板厚・形状・拘束条件・要求品質(検査条件)により変動します。安全対策(換気・保護具等)を徹底のうえ、必要に応じて専門家へご相談ください。
当サイトの著作物・知的財産は上村昌也に帰属します(無断転載禁止)。
気密(漏れゼロ)案件は、溶接だけでなく「合わせ精度・歪み・角部処理・検査条件」まで含めた工程設計が要点です。
図面(PDF)または写真をお送りいただければ、可否・概算・納期の方向性を先に整理できます。
- 材質・板厚・数量(分かる範囲でOK)
- 用途・油種・温度帯(漏れゼロ条件の前提)
- 検査条件(水張り/加圧保持など、社内基準があれば共有)
- 希望納期(確定でなくてもOK)
スマホでQRを読み取り、LINEから図面・写真を送っていただくことも可能です
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溶接管理技術者1級
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