ものづくりだより532号(技術・安全管理)
おはようございます。溶接管理技術者の上村昌也です。
「まさか、清掃で火が出るとは思いませんでした。」
アルミMIG溶接の作業後、製品の下に敷いていた銅板(敷板)にスパッタが飛びました。いつも通り、SUS製ワイヤーブラシで擦って落とした瞬間、“ボーッ”と小さな炎が立ち上がり、正直ゾッとしました。
溶接でもなく、火気も使っていない。単なる掃除です。
だからこそ現場は油断します。慣れた作業ほど「安全の前提」が崩れた時に危ないです。
この記事で得られること(結論)
- なぜ清掃で燃えるのか(粉化×銅表面酸化物×摩擦熱の成立条件)
- 明日からの再発防止(擦らない清掃・敷板管理・初動対応)
- 教育資料として使える「現場ルール・チェックリスト」
まず事実関係|「裏当て」ではなく“製品の下に敷いた銅板(敷板)”です
今回の銅板は、溶接の裏波を支える「裏当て(バッキング)」ではありません。
あくまで、作業台の保護やスパッタ受けとして製品の下に敷いていた銅板(敷板)です。
ヒヤリハットの状況(要点)
- 対象:敷板(銅板)表面に付着したアルミスパッタ
- 作業:SUSワイヤーブラシで擦って除去
- 現象:擦った瞬間に“ボーッ”と発火(短時間の炎)
用途が裏当てかどうかではなく、条件が揃うと清掃工程でも燃える、という点が本質です。
なぜ燃えるのか|“テルミット様反応”が成立する条件が揃った可能性
結論として、今回の発火は「摩擦熱だけで必ず燃える」という話ではありません。
ただし、現場の状況によっては、清掃の動作が点火・急速反応の引き金になり得ます。安全教育としては、“条件が揃うと起こる”で整理するのが最も実務的です。
発火の三条件(現場で覚える版)
- ① 燃料:アルミスパッタが削られて微粉(アルミ粉)になる
- ② 酸素源:銅板表面の酸化物(酸化銅等)や焼け・汚れが存在する
- ③ 点火:SUSブラシの強擦りで局所発熱(摩擦熱)が入る
※銅表面の黒ずみはCuO単独とは限りません。記事内では安全側に倒して「銅表面の酸化物(酸化銅等)」と表現します。
要するに、「擦る」=粉にする+熱を入れるという危険条件を同時に作ってしまうのが問題です。
ここを潰せば、再発確率は下げられます。
再発防止|「粉にしない」「擦らない」「水をかけない」—現場で守る3つの鉄則
禁止事項(やってはいけない)
- 銅板(敷板)×SUSワイヤーブラシで強擦りしない(粉化+摩擦熱を同時に作る)
- エアブローで粉を舞わせない(拡散・再点火リスク/吸入リスク)
- 発火時に水をかけない(金属火災は一般火災と挙動が異なる)
鉄則①:SUSワイヤーブラシで“強擦り”しない(粉にしない)
最も危険なのは、アルミスパッタを微粉化(燃料化)することです。
SUSワイヤーブラシは便利ですが、銅板(敷板)上のアルミを「削って粉にする」方向へ行きやすいので、強擦りは厳禁にします。
鉄則②:清掃は「削る」から「剥がす」へ切り替える(道具を変える)
代替は、スクレーパー(ヘラ)で「剥がす」です。削り粉を作らず、熱も入りにくくなります。
「落とす」のではなく「剥がす」。この言い換えだけで、現場の動作が変わります。
推奨手順(当面これで統一)
- スパッタはスクレーパーで剥がす(削らない)
- 粉が出たら舞い上げず回収→密閉(エアブロー禁止)
- 敷板が黒ずみ・焼けで荒れている場合は整備または交換(消耗品扱い)
鉄則③:敷板(銅板)は“消耗品扱い”で管理する(酸化物を育てない)
酸素源になり得るのが、銅板表面の酸化物(酸化銅等)や焼け・汚れです。
黒ずみが進んだ敷板を「もったいない」で使い続けるほど、リスクが育ちます。
- 黒ずみ・焼けが強い敷板は整備(研磨・更新)か交換
- スパッタが多い工程は、敷板の上に交換前提の薄板(カバー板)を敷く
- 清掃エリア近傍の可燃物(紙ウエス・溶剤・段ボール)は排除
鉄則④:発火時の初動を決めておく(小さい火でも“手順化”する)
金属火災は一般火災と性質が違います。
現場としては、まず「動作を止める」「可燃物を離す」「水を使わない」を合言葉にします。初期対応は必ず社内ルールと整合させてください。
- 乾燥砂で覆って窒息消火(小規模・初期)
- 金属火災(D火災)対応の消火剤/消火器を手の届く場所へ
教育資料版(掲示・朝礼用)|現場ルールとチェックリスト
現場ルール(短く・強く)
- 銅板(敷板)をSUSワイヤーブラシで強擦りしない
- 削って粉にしない(スクレーパーで剥がす)
- 粉は舞い上げない(エアブロー禁止)
- 燃えたら水を使わない(乾燥砂/金属火災対応)
▶ 点検チェックリスト(毎週5分で確認)
- 敷板(銅板)の黒ずみ/焼けが強い → 整備または交換対象にした
- スクレーパーが清掃エリアに常備されている(迷わず使える)
- SUSワイヤーブラシ「強擦り禁止」が周知されている
- 粉が出た場合の回収(舞い上げない)が共有されている
- 清掃エリア周辺に可燃物(紙・ウエス・溶剤・段ボール)がない
- 乾燥砂または金属火災(D火災)対応の消火剤が手の届く位置にある
- 保護具(保護メガネ/手袋/長袖)が徹底されている
- ヒヤリハット報告の窓口(誰に・どう連絡)が明確
よくある誤解(補足)|“溶接じゃない工程”ほど危ない
誤解①:「清掃だから安全」
清掃は「火を使わない」ので油断しがちです。しかし、条件が揃えば、清掃が点火工程になります。
安全教育では「溶接より清掃が危ない日がある」と言い切って良いと考えます。
誤解②:「裏当て材じゃないなら関係ない」
今回の通り、裏当てではなく敷板でも起きます。論点は用途ではなく、アルミの微粉化と銅表面酸化物と摩擦の局所発熱です。

アルミ溶接後、製品下に敷いた銅板にスパッタが付着した状態。SUSワイヤーブラシで強擦りすると粉化と摩擦熱が重なり、発火条件が揃う場合があります。
よくある質問(FAQ)
Q1. なぜ火気なしで“ボーッ”と燃えるのですか?
アルミが削れて微粉(燃料)になり、銅板表面の酸化物(酸化銅等)が酸素源となり、SUSブラシの強擦りで局所発熱(点火)が入ると、条件次第で急速反応(テルミット様反応)が成立し得ます。大事なのは「擦る=粉化+加熱」を同時に作ってしまう点です。
Q2. 敷板の清掃はどう変えるのが安全ですか?
SUSワイヤーブラシの強擦りは避け、スクレーパーで「剥がす」方向に変更します。粉が出た場合は舞い上げず回収し、敷板の黒ずみ・焼けが強い場合は整備または交換(消耗品扱い)にします。
Q3. もし燃えたら、初期対応はどうすれば良いですか?
まず擦る動作を止め、可燃物を遠ざけます。水はかけず、乾燥砂で覆って窒息消火(小規模・初期)を基本にし、金属火災(D火災)対応の消火剤・消火器を手の届く場所に準備します。運用は社内の安全規定・消防計画に必ず整合させてください。
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本記事は一般的な安全教育を目的とした整理です。実際の最適手順は、設備、保管物、作業環境、社内安全規定、消防・労安上の要件により変動します。運用前に現場責任者の点検と、社内ルールへの整合を必ず行ってください。
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図面不足・仕様未確定でも大丈夫です。
「決める順番」を整理し、割れ・歪み・段取りの論点を見える化します。
- 現状写真(全体+清掃対象部のアップ)
- 材質・板厚(不明なら推定でもOK)
- 困っている症状(発火/粉化/飛散/作業標準化など)
- 求める条件(安全最優先/工数削減/品質維持など)
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