SUS310Sの溶接割れ対策|高温割れを防ぐ「入熱管理」と「溶加棒選定」の極意
ものづくりだより 溶接技術編
おはようございます。溶接管理技術者1級の上村昌也です。
「SUS310Sを溶接すると、どうしてもビードセンターやクレーターに割れが入ってしまう」
「予熱や層間温度を守っているはずなのに、検査でマイクロクラックが見つかる」
今回は、耐熱ステンレスとして多くのプラントや熱処理炉で使用される【SUS310S(耐熱鋼)】の溶接割れ対策について、技術者の視点からメカニズムと解決策を解説します。
教科書通りの管理だけでは防げない「難加工材の癖」を理解し、トラブルのないモノづくりを目指しましょう。
よくある課題|SUS310Sはなぜ「割れ」やすいのか
SUS310Sは優れた耐酸化性と耐熱性を持つ反面、溶接現場では以下のようなトラブルが頻発します。
- TIG溶接後、冷却時に「ピキッ」という音と共に割れが発生する。
- カラーチェック(PT)を行うと、目視では見えない微細な亀裂が無数に見つかる。
- 多層盛り溶接を行うと、前層の熱影響で液化割れが起きる。
これらは施工者の腕が悪いのではなく、素材そのものが持つ「完全オーステナイト組織」特有の凝固割れ感受性の高さに起因しており、一般的なステンレス(SUS304等)と同じ感覚で施工すると必ず失敗します。
原因|教科書通りの施工では防げない理由
SUS310Sにおける溶接割れ(高温割れ)の主な原因は、組織構造と不純物の挙動にあります。
- フェライトを含まない:SUS304などは数%のフェライトを含み、これが不純物を固溶して割れを防ぎますが、SUS310Sは完全オーステナイト組織のため、この自浄作用がありません。
- 低融点化合物の形成:凝固の最終段階で、S(硫黄)やP(リン)といった不純物が結晶粒界に集まり(偏析)、低い融点の液膜を作ります。これが収縮応力に耐えられず引き裂かれます。
- 熱伝導の悪さと熱膨張:ステンレス鋼特有の熱の籠りやすさが、割れのリスクを増大させます。
そのため、単に電流値を下げるだけでなく、材料選定(溶加棒)やパス間温度の厳格なコントロールといった、もう一歩踏み込んだ対策が不可欠です。
解決策|上村製作所が実践する「割らせない」ための3つの技術
① 状況に応じた「溶加棒」の厳選と品質管理
一般的に、SUS310Sの溶接には高温強度を確保するため共金系の「SUS310(TG-S310等)」を選定します(参考:神戸製鋼所 ステンレス鋼の溶接材料選定ガイド)。
しかし、310系統の溶接材料は完全オーステナイト組織となるため、本質的に割れ感受性が高いことに変わりありません。そのため弊社では、S(硫黄)やP(リン)などの不純物が厳格に管理された信頼できるメーカーの材料のみを使用し、材料起因のトラブルを未然に防いでいます。
② 航空宇宙品質の「入熱・パス間温度管理」
「150℃以下」という一般的な基準だけでなく、製品形状に合わせて入熱を厳しく制限します。必要であれば空冷時間を十分に確保し、多層盛り溶接における前層への熱影響(再熱割れのリスク)を最小限に抑えます。
これは、三菱重工業株式会社様をはじめとする航空・宇宙分野の難加工材溶接で培った、弊社のコア技術の一つです。
③ クレーター処理とエンド部の処理技術
最も割れが発生しやすい溶接の終端部(クレーター)において、電流の減衰制御(ダウンスロープ)を緻密に行い、収縮孔(パイプ)の発生を防ぎます。また、エンドタブを利用するなど、製品本体に欠陥を残さない施工計画を立てます。

上村製作所での施工事例。難易度の高いSUS310Sも、適切な熱管理により健全な溶接ビードを実現します。
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よくある質問(FAQ)
Q1. すでに他社で製作して割れてしまった製品の補修は可能ですか?
亀裂の状態や場所にもよりますが、補修溶接の可否診断から対応可能です。割れ部分を完全に除去し、適切な開先加工と溶接条件でリカバリーできる可能性があります。まずはご相談ください。
Q2. 試作開発段階からの相談はできますか?
大歓迎です。「図面ではSUS310Sだが、形状的に溶接が難しい」といった場合、溶接しやすい継手形状の提案や、加工手順の見直しなど、設計段階からサポートいたします。
Q3. SUS310S以外のステンレスや異材溶接も対応できますか?
はい。SUS304はもちろん、チタン、ハステロイ、インコネルなどの特殊金属や、アルミなどの非鉄金属の溶接も得意としております。
「SUS310Sの溶接割れで困っている」「難加工材の依頼先がない」――
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