【SUBARU WRX VAB】ルーフキャリアのM5ネジ山修復|ヘリサートで“軸力”の信頼性を取り戻す
ものづくりだより530号(製作事例)
おはようございます。溶接管理技術者の上村昌也です。
「強固な溶接も、最後の一本のボルトが締まらなければ台無しになる」――現場ではよくある話です。
ルーフボックスのように走行風を受け続ける機材は、最後は締結(ボルトの軸力)で安全性が決まります。
今回は、SUBARU WRX VABのオーナー様よりご相談いただいた、ルーフキャリア取付部のM5ネジ山なめを、ヘリサート(ワイヤーインサート)で再構築した事例をご紹介します。

よくある課題|「ズルッ」と逃げる感覚は“ネジ山破壊”のサインです
ボルトを締め込んでいき、最後に手応えが出るはずの瞬間、抵抗が抜ける――この感触は要注意です。
ネジ山が摩耗・欠損していると、ボルトは回っても軸力(締結力)が立たない状態になりやすく、振動で緩みが進むリスクが残ります。
- 最後の一締めが効かない/ズルッと滑る
- 走行後に増し締めすると、毎回わずかに回る
- タップでさらっても“締まる感じ”が戻らない
ルーフキャリア周りは安全側の判断が重要です。
「まだ引っかかっているから大丈夫」は、締結では危険側になり得ます。
原因|なぜネジ山は崩れるのか:軸力の喪失と、環境要因
締結の本質は「回る」ではなく「ボルトがわずかに伸びる力(軸力)」
ネジ締結は、ボルトが弾性域でわずかに伸び、その戻ろうとする力で部材を押し付け、摩擦で固定する仕組みです。
ところが受け側のネジ山が弱っていると、規定トルク相当まで締めても軸力が立たず、振動で緩みやすくなります。
崩壊の典型ルート:繰り返し脱着・微振動・腐食・固着
ルーフ周りは雨水・融雪剤・粉塵などの影響を受けやすく、固着や腐食が起きると、取り外し時にネジ山を傷めることがあります。
また、車種やキャリアキットによって材質の組み合わせが異なるため、現物の状態確認が前提となります。
方針|「タップでさらう」だけでは“強度の土台”が戻らない理由
既存の穴にタップを通して整える方法は、状態によっては有効ですが、山が欠けている場合は残った山をさらに削る形になり、結果として軸力が出ないまま再発することがあります。
本件は延命ではなく、ネジ山を再構築(補強)する方針を採用しました。
解決策|ヘリサート(ワイヤーインサート)で“元のM5”を再生する
ヘリサートは、インサート用の専用ねじ(STIねじ:Screw Thread Insert)を成形し、ステンレス製コイルを挿入して、内側を元のM5ねじとして復元する方式です。
母材状態と施工精度が前提ですが、一般的に耐摩耗性・保持力の改善が期待できるため、現場では補強としても使われます。
施工手順|ヘリサート加工で重要なのは「垂直度」「芯」「切粉」です
Step1:状態確認(方針決定)
- ボルトがどこまで入るか(途中で噛む/最後だけ逃げる)
- 穴の偏心・拡大、周辺の薄肉・割れの有無
- 切粉が落ちて困る構造か(養生の要否)
Step2:下穴加工(垂直度と芯を崩さない)
下穴加工は斜めが入ると、その後のタップ・挿入・締結まで全てが崩れます。
切粉は構造に応じて、グリス等で保持するなど、侵入を避ける段取りを行います。
Step3:専用タップでSTIねじ成形(切粉管理が品質を決めます)
インサート用の専用タップでねじを成形します。切粉の噛み込みを避け、戻しを入れながら確実に切削します。

Step4:インサート挿入(沈み込み量はキット推奨に従う)
挿入深さはキットの推奨(メーカー指示)に従います。表面に出す/沈めるの判断も、座面と応力集中の観点で決めます。
※止まり穴の場合、タング処理(折り取り)の要否も合わせて判断します。
Step5:締結検査(“締まる”ではなく“軸力が立つ”)
- ボルトがスムーズに入るか(引っ掛かりが無いか)
- 規定トルク相当で、逃げずに軸力が立つ感触があるか
- 座面の当たり、ガタ、異音の有無
再発防止|締めすぎ・固着を避けると寿命が伸びます
トルク管理:指定値の遵守(弾性域で使う)
ヘリサートで受け側が強くなっても、締めすぎればボルト側が先に破断することがあります。
車両・キットの規定トルクを守り、トルクレンチを使うのが安全側です。
焼付き・固着対策:環境に応じてアンチシーズ等を検討
融雪剤や水分の影響がある環境では、焼付き・固着が再発要因になり得ます。使用条件に応じて、適切な防錆・焼付き対策を検討します。
よくある質問(FAQ)
Q1. ヘリサート加工後の強度は、元の状態より強いのですか?
条件によりますが、一般的に耐摩耗性・保持力の改善が期待できる方式です。ただし母材の状態(薄肉・割れ・偏心)や施工精度、締結条件で結果が変わるため、現物確認が前提となります。
Q2. ルーフキャリア以外のネジ山修復もお願いできますか?
はい、可能です。治具・機械部品・薄板部品など、ネジ山が潰れた(なめた)箇所の修復に対応いたします。材質・板厚・穴深さ・周辺形状を確認し、適切なインサート方式をご提案します。
Q3. 期間はどれくらいかかりますか?
状態(ボルト折れ込み、固着、穴の損傷度合い)で変わります。写真(全体+ネジ部アップ)をお送りいただければ、可否・段取り・目安を先に整理できます。
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免責事項:
本記事は一般的な技術情報と現場知見に基づく解説です。実際の最適条件は、材質・形状・拘束条件・要求品質・使用環境により変動します。安全対策を徹底のうえ、必要に応じて専門家へご相談ください。
図面不足・仕様未確定でも大丈夫です。
「決める順番」を整理し、再発原因と段取りを見える化します。
- 現状写真(全体+ネジ部アップ)
- ボルト規格(分かる範囲でOK)
- 使用環境(雨水/融雪剤/屋外等)
- 困っている症状(締まらない/固着/折れ込み 等)
※内容によっては、加工依頼(見積)へそのまま移行可能です
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