溶接管理技術者経営ブログ

中東情勢よりも怖い話があります――タングステン不足と、電極棒に潜むレアアース規制の盲点


ものづくりだより 臨時号。
おはようございます。溶接管理技術者の上村昌也です。

最近、行政機関やお取引先のご担当者様から「中東情勢の影響はどうですか?」というお問い合わせを多くいただいています。

ありがとうございます。ご心配をおかけして申し訳ありません。

今日は中東情勢へのお答えと、実はそれ以上に私たちが頭を悩ませている「もうひとつの問題」について、包み隠さずお話しさせてください。

📌 この記事でわかること

  • 中東情勢が弊社生産ラインに与える影響(現時点の見解)
  • タングステン世界的供給危機の原因(中国輸出規制・国内受注制限・価格高騰)
  • TIG溶接用タングステン電極にも及ぶ「イットリウム規制」の実態
  • 弊社の対応方針と、お取引先へのお願い
上村製作所の4コマ漫画。1.中東情勢の質問に答える上村昌也。2.タングステン供給危機を「玉不足」と焦る。3.中国輸出規制と価格高騰、イットリウム規制を説明。4.お取引先への協力と理解をお願いする。

上村製作所からのお知らせ臨時号。中東情勢の影響よりも深刻な、タングステンやレアアース(イットリウム)の世界的供給危機について、上村昌也が4コマ漫画で分かりやすく解説します。

📋 この記事の目次(クリックで開く)
  1. 中東情勢について――現時点での正直なお答え
  2. 実はこちらのほうが深刻です――タングステンの「玉不足」問題
    1. 中国が輸出の蛇口を絞った
    2. 日本国内のメーカーが受注を止めた
    3. 価格が記録的な水準に跳ね上がっている
  3. 「電極棒」にまで波及している――イットリウム規制という盲点
  4. 私たちにできること――まず「正確な情報」を持つことから
  5. お取引先の皆様へ――ひとつお願いがあります
  6. よくあるご質問

中東情勢について――現時点での正直なお答え

結論から言いますと、いまのところ弊社の生産ラインへの直接的な影響は限定的です。

原油価格の上昇が輸送コストに波及する可能性については、引き続き注意深く見ていますが、現段階で「中東情勢が原因で生産が止まる」という状況にはありません。

ただ――正直に申し上げると、中東情勢よりもいま私たちが深刻に受け止めている問題があるのです。

実はこちらのほうが深刻です――タングステンの「玉不足」問題

ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、2025年末ごろからタングステンの世界的な供給危機が起きています。

タングステンは超硬工具の主原料であり、弊社の加工現場でも欠かせない材料です――特にTIG溶接用の電極として日常的に使用しています。その供給が、いま「買いたくても買えない」状況になっています。

なぜそうなったのか、3つのポイントでご説明します。

① 中国が輸出の蛇口を絞った

世界のタングステン生産量の約8割は中国産です。その中国が2025年2月から、軍民両用(デュアルユース)規制の観点で輸出管理を厳格化しました。さらに2026年に入って輸出許可枠が極端に絞られ、世界市場で「物がない」状態が続いています。

② 日本国内のメーカーが受注を止めた

この影響はすでに日本に届いています。国内の大手タングステン粉末メーカー各社が「2026年4月出荷分より受注制限を実施する」と正式に発表しました。

「お金を出しても材料が買えない」――これが、いま私たちの業界で実際に起きていることです。

③ 価格が記録的な水準に跳ね上がっている

世界的な防衛需要の高まりも重なり、タングステンの国際指標価格(APT)は以前の数倍規模にまで上昇しています。これは一時的な値動きではなく、構造的な変化と見ています。

タングステン供給危機のサプライチェーン図|中国輸出規制から上村製作所への影響経路

タングステン供給危機のサプライチェーン。中国の輸出規制・イットリウム規制が国内粉末メーカーの受注制限を経て溶接現場まで波及する構造を示す。(上村製作所作成)

「電極棒」にまで波及している――イットリウム規制という盲点

ここからは、溶接業界に関わる方にとって特に重要な話です。

弊社では純タングステン電極・ランタナタングステン電極・レアーアースタングステン電極の3種類を用途に応じて使い分けています。中でもレアーアース電極は、直流・交流両用でオールマイティに使えることから、ステンレスやチタン溶接で特に重宝しています。

弊社が日本酸素G&W株式会社(旧:大陽日酸ガス&ウェルディング)から仕入れているレアーアース電極は、ドイツの ABICOR BINZEL 社の E3®(カラーコード:紫)です。このE3®は「希土類混合酸化物」を添加した高性能電極で、DIN EN ISO 6848規格に準拠しています。

⚠️ ここが問題です:E3®には「イットリウム」が含まれている

E3®の成分には、酸化ランタン・酸化セリウムに加えて、酸化イットリウム(Y₂O₃)が含まれています。そしてこのイットリウムが、まさに中国の輸出規制対象7種のレアアースのひとつなのです。
同様に、ラメール社など他社のレアーアース電極(WG規格)も「セリウム・ランタン・イットリウム」の混合酸化物を使用していることが、各社の公式サイトで確認されています。

つまり「タングステンの問題」は、金属素材としてのタングステンだけの話ではありません。溶接現場で毎日使う電極棒そのものにも、規制の波が直撃しているのです。

イットリウムの価格高騰については日本経済新聞も報じており、1年で価格が約140倍に達したとされています。仕入先から「在庫が不安定になっている」という情報を受けているのも、こうした背景があるためです。
👉 参考(ジェトロ公式):中国・重希土類7種のレアアース輸出管理実施について

プランゼー社・韓国上東鉱山・リサイクルによる中国依存脱却の代替調達ルート図

中国に依存しない二本柱の供給体制。プランゼー社(オーストリア)が韓国・上東鉱山の最大株主(14%出資)であり、リサイクルと鉱山採掘の両輪で調達ルートを構築している。(上村製作所作成)

私たちにできること――まず「正確な情報」を持つことから

正直に言います。弊社の規模で中国以外の調達ルートを独自に開拓したり、リサイクル体制を一から整えたりするのは、現実的ではありません。

いま私たちがしているのは、販売店・仕入先のご担当者様からリアルタイムで情報を収集することです。現場の最前線にいる方々の声が、いちばん正確で速い。

参考情報として、世界の動きもお伝えしておきます。

  • 韓国・上東鉱山(Sangdong Mine)の再稼働が、中国依存からの分散策として業界内で注目されています。
  • オーストリアのプランゼー社(Plansee Group)は、タングステンのリサイクル再生で世界的に知られたメーカーです。使用済み超硬工具や研削スラッジから超高純度のタングステン粉末を再生する技術を持ち、多くの顧客と長期引き取り契約を結んでいます。
    👉 公式情報:Plansee Group – Tungsten Recycling

さらに興味深いのは、プランゼー社は韓国・上東鉱山の最大株主(14%出資)でもあるという点です。「リサイクル」と「上東鉱山からの調達」の両輪で、中国に依存しない供給網をすでに構築しています。
👉 参考:Plansee Group 公式サイト

ただし、こうした代替供給が安定するまでには時間がかかります。今回の問題は一社の努力でどうにかなる規模を超えています。

お取引先の皆様へ――ひとつお願いがあります

今後の市場の動き次第では、誠に恐縮ではありますが、価格改定(値上げ)や納期の延長について、順次ご相談させていただく可能性が出てきています。

突然のご連絡にならないよう、今から状況をお伝えしておきたいと思い、今回この記事を書きました。

弊社としても、皆様へのご負担を最小限に抑えるべく、情報収集と代替手段の確保に全力で取り組んでいます。何卒、現在の市場環境についてご理解いただけると幸いです。

今後の動向は、このブログで随時お伝えしていきます。引き続きよろしくお願いします。

よくあるご質問

Q. TIG溶接用のタングステン電極も品薄になりますか?

はい、影響が出ています。弊社で使用している純タングステン電極・ランタナタングステン電極・レアーアースタングステン電極(ABICOR BINZEL E3®)のうち、特にレアーアース電極は成分に酸化イットリウムを含んでおり、中国の輸出規制の直撃を受けています。仕入先から「在庫が不安定になっている」との情報を受けており、今後の動向を注視しています。

Q. イットリウムとは何ですか?なぜ規制されているのですか?

イットリウムはレアアース(希土類)の一種で、タングステン電極の性能向上に使われる添加物です。中国政府が2025年4月から軍民両用素材として輸出管理の対象に加えました(ジェトロ公式情報)。世界生産の大部分を中国が占めるため、規制の影響が価格・供給両面に直接出ています。

Q. 現在進行中の案件の納期に影響は出ますか?

現時点では既存のお取引に直接影響が出ている案件はございません。ただし、今後の市場変化によっては納期の延長をお願いする可能性があります。その場合は必ず事前にご連絡します。

Q. 価格改定はいつ頃になりますか?

現時点で具体的な時期は確定していません。市場の動向を見ながら、変更が必要な場合は必ず事前にご案内します。突然の改定はいたしません。

Q. タングステン以外の素材(アルミ・ステンレス・チタン)の加工は問題ありませんか?

はい、現時点ではアルミ・ステンレス・チタン材料の調達に大きな問題は発生していません。引き続き通常通りご対応できます。

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免責事項

本記事は執筆時点(2026年)における現場見聞および一般的な情報に基づく解説です。記事内で紹介した内容は特定の企業・団体を推薦するものではありません。加工・溶接に関するご依頼・ご相談については、必ず事前にお問い合わせのうえ個別にご確認ください。詳細は「免責事項」ページをご確認ください。

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