【薄板溶接の失敗学】穴あき・波打ち・割れを防ぐ「入熱と拘束」の設計思想
溶接技術百科シリーズについて
株式会社上村製作所が運営する「溶接技術百科シリーズ」では、アルミ・チタン・ステンレス・ジュラルミンなど、主要金属の溶接に関する専門知識と、現場で役立つ実践ノウハウを体系的に解説しています。
航空宇宙・レーシング部品・研究開発試作など、高精度を要求される現場で培った実績をもとに、各材料の特性や品質管理のポイントをわかりやすく紹介します。
研究所や開発部門の皆様から、「薄板(t1.0mm以下やアルミ材)の溶接で、どうしても結果が安定しない」というご相談を頻繁にいただきます。
設計上は成立していても、実際の加工現場では以下の4つのトラブルが頻発していないでしょうか。
- 穴あき(バーンスルー):一瞬で母材が溶け落ちる。
- 波打ち(歪み):熱収縮により、製品が波打って平面度が出ない。
- 割れ(クラック):凝固収縮に耐えられず、ビードや熱影響部が割れる。
- 寸法不良:溶接後の形状が変化し、相手部品と組めない。
薄板溶接は、厚板以上に「物理法則(熱と力)」の影響をダイレクトに受けます。
本ページでは、職人の“腕”に依存しすぎない、工学的根拠に基づいた「失敗を防ぐ段取りと条件設定」について解説します。
1. なぜ薄板で失敗が起きるのか(メカニズムの整理)
薄板溶接が難しい根本的な理由は、「熱容量の小ささ」と「剛性の低さ」にあります。
厚板であれば母材自体が熱を吸い取り(ヒートシンク効果)、また自重や剛性で変形を耐えますが、薄板にはその余裕がありません。
| 現象 | 発生メカニズム | 主な原因 |
|---|---|---|
| 穴あき | 入熱量が母材の熱伝導(逃げ)を上回った瞬間に崩壊する。 | 入熱過多、ルートギャップ過大、放熱不足 |
| 割れ | 溶融金属が固まる際の収縮応力が、材料の引張強度を超える。 | 拘束過大(逃げ場がない)、終端処理不足、アルミ等の材質特性 |
| 波打ち | 溶接線の方向へ収縮しようとする力が、薄板の座屈強度を超える。 | 連続溶接による熱蓄積、拘束の不足または偏り |
薄板溶接は、現象が「ゆっくり悪化する」のではなく、条件が外れた瞬間に「一発で壊れる(穴あき・座屈・割れ)」という特徴があります。
つまり、薄板では条件調整(電流・速度)より前に、前提条件(入熱の入れ方・拘束の効かせ方)を設計することが重要となります。
2. 「条件」よりも「段取り」が品質の8割を決める
多くの現場で「電流値を1A単位で調整する」ことに時間を費やしがちですが、薄板溶接の成否は、トーチを握る前の「段取り(仮付け・治具・順序)」で決まります。
① 仮付け(タック溶接)の設計
仮付けは単なる「位置決め」ではありません。熱変形を抑制するための重要な工程です。
- 点数より位置:むやみに点数を増やすのではなく、熱収縮による「引っ張り方向」を想定し、変形の起点となる箇所を確実に抑えます。
- ギャップ管理:薄板において0.5mmの隙間は致命的です。仮付け段階でルートギャップをゼロ(または均一)に保てなければ、本溶接で必ず穴が開きます。
② 入熱の制御(スキップ溶接)
「端から端まで一気に溶接する」のは、薄板ではご法度です。熱が進行方向に蓄積し、後半になるほど歪みと溶け落ちのリスクが増大します。
区間分割(スキップ)法や、対称法(中心から外へ、または交互に)を採用し、熱を散らすことで母材温度の上昇を抑えます。
③ 治具による拘束と放熱
治具には2つの役割があります。
- 変形の抑制:波打ちが発生しやすい方向だけを物理的に押さえる。
- ヒートシンク(放熱):銅板やアルミ板を裏当て材として使用し、過剰な熱を逃がすことで、溶け落ち(バーンスルー)を防ぐ。
※逆に「ガチガチに固めすぎる(過拘束)」と、逃げ場を失った応力が「割れ」として現れるため、材質に合わせた加減が必要です。
薄板は、「拘束=正義」ではありません。拘束で止めるべき変形と、拘束すると割れやすくなる応力を、分けて考える必要があります。
3. 依頼前に整理しておきたい「判断材料」
試作・開発案件をスムーズに進めるために、以下の情報が整理されていると、最適な工法(入熱・拘束条件)を早期に提案可能です。
エンジニア向けチェックリスト
- 材質と詳細スペック:A5052、SUS304など(板厚・調質・表面処理の有無)
- 最重要公差:「どこを基準に」寸法を出したいか(平面度優先か、穴位置優先か)
- 外観要求レベル:溶接焼けの除去、ビードカット(研磨)、塗装の有無
- 機能要求:気密性(漏れなきこと)、強度、振動耐久性など
特に「図面公差」と「溶接の物理的限界」が乖離している場合、設計段階での形状変更(リブ追加やフランジ構造化など)をご提案することもあります。
初期段階で論点を揃えておくと、試作回数の削減・手戻りの低減につながり、結果的にスケジュールと総コストが安定します。
FAQ|薄板溶接のトラブル対策
技術Q&A
Q. 薄板で穴あきが出ます。溶接電流を下げれば解決しますか?
A. 電流を下げるだけでは解決しないことが多いです。原因は「ルートギャップ(隙間)の開き」や「熱の逃げ場がないこと」にあるケースが大半です。仮付け精度の向上と、裏当て材(ヒートシンク)の使用をセットで見直す必要があります。
Q. 波打ちが残ってしまいました。後からハンマー等で矯正できますか?
A. 可能な場合もありますが、薄板(特にt1.0mm以下)の後矯正は、叩くことで板が伸び、さらに歪みが複雑化するリスクがあります。後工程で直すのではなく、溶接工程(順序・拘束)で発生量を最小限に抑えるのが、品質安定の鉄則です。
Q. まだ図面がラフな段階ですが、相談できますか?
A. 可能です。むしろ初期段階の方が「溶接しやすい継手形状」をご提案でき、コストダウンと品質向上に繋がります。用途と重要寸法をご教示ください。
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免責事項:
本ページは一般的な技術情報と現場知見に基づく解説です。実際の最適条件は、材質・板厚・形状・拘束条件・要求品質により変動します。安全対策(換気・保護具等)を徹底のうえ、必要に応じて専門家へご相談ください。
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仕様が固まっていない段階でも、成立条件(熱・治具・材質)から整理できます。
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