ステンレス鋼溶接技術解説 – 種類、特性、溶接方法、注意点

ステンレス鋼溶接技術解説 – 種類、特性、溶接方法、注意点

【はじめに – ステンレス鋼の可能性と私たちの技術力】

私たちの生活のあらゆる場面で活躍するステンレス鋼。その優れた耐食性、耐酸性、そして機械的強度は、建築、医療、食品産業など、多岐にわたる分野で不可欠な素材となっています。特に、SUS304はステンレス鋼の中でも最もポピュラーな規格であり、その汎用性の高さから全体の約65%を占めるほどです。

しかし、そのポテンシャルを最大限に引き出すためには、適切な溶接技術が不可欠です。私たちは、長年の経験と高度な技術によって、お客様のニーズに合わせた最適なステンレス鋼溶接ソリューションを提供しています。この記事では、ステンレス鋼の種類から特性、そして確かな溶接方法、注意点までを詳しく解説し、皆様のビジネスにおけるステンレス鋼の活用を強力にサポートいたします。

【ステンレス鋼の種類と特性 – 用途に合わせた最適な選択を】

ステンレス鋼は、その化学成分と金属組織によって、大きく分けてマルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系の3種類に分類されます。それぞれの特性を理解することで、用途に最適なステンレス鋼を選択することが可能になります。

【1. マルテンサイト系ステンレス鋼 – 高硬度と強度を追求】

代表的な鋼種としては、SUS403、410、410S、420J1、420J2、431などが挙げられます。これらの鋼種は、焼き入れによって硬化させることができ、高い硬度と強度を必要とする機械構造部品などに用いられます。一方で、一般的に溶接性は他の系統に比べて劣る傾向があります。

【2. フェライト系ステンレス鋼 – 耐食性と高温酸化性に優れる】

SUS429、SUS430などが代表的です。クロムを16~18%含有しており、優れた耐食性や高温での耐酸化性が特徴です。建築内装、家庭用器具、家電部品など、幅広い用途で利用されています。ただし、溶接時に割れが発生しやすいという点には注意が必要です。

【3. オーステナイト系ステンレス鋼 – 優れた溶接性と幅広い用途】

18Cr-8Niを含んだSUS304は、ステンレス鋼の代表的な規格と言えるでしょう。食器、建築金物、配管など、その用途は非常に多岐にわたります。炭素鋼と同様に比較的容易に溶接が可能ですが、いくつかの注意点があります。

【3.1 オーステナイト系ステンレス鋼の溶接性 – 注意すべきポイント】

オーステナイト系ステンレス鋼は比較的溶接しやすいものの、溶接時に高温割れ(凝固割れ)、粒界腐食、応力腐食割れ(SCC)といった問題が発生する可能性があります。これらのリスクを理解し、適切な対策を講じることが重要です。

【(1) 高温割れ – 溶接時の最大の敵】

溶接収縮歪みが原因で発生しやすく、縦割れやクレータ割れといった形態で見られます。溶接金属中のリン(P)や硫黄(S)の量が多いほど感受性が高まりますが、フェライト量を調整することで抑制が可能です。

【(2) 腐食 – ステンレス鋼も油断大敵】

ステンレス鋼は、クロムが酸化して形成する緻密な不動態皮膜によって腐食を防いでいます。しかし、溶接時の熱影響などにより、この皮膜の形成が阻害されると腐食が発生する可能性があります。

【(3) 応力腐食割れ(SCC) – 過酷な環境下での注意点】

材料、環境、応力の3つの条件が揃うと発生する現象です。活性溶解型(APC)と水素脆化型(HE)に大別され、それぞれ異なるメカニズムで割れが進行します。

【(4) 熱影響部の鋭敏化 – 粒界腐食のリスク】

溶接熱影響部で炭化物が析出し、粒界腐食が発生しやすくなる現象です。これを防ぐためには、溶接入熱を低く抑える、低炭素ステンレス鋼や安定化ステンレス鋼を使用する、溶接後に固溶化処理を行うなどの対策が有効です。

【4. 溶接方法 – 最適な手法で高品質な仕上がりを】

オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)の溶接方法には、GTAW(ティグ溶接)、GMAW(マグ溶接、ミグ溶接)、ろう付け、はんだ付け、スポット溶接、YAGレーザ溶接など、様々な種類があります。

【TIG溶接 – 美しさと精密さを両立】

特に、溶接部の美観が求められるステンレス製品に多く用いられるアーク溶接法です。精密で高品質な溶接部を形成できますが、溶接速度が遅く、溶け込みが浅いという特徴があります。溶接速度が遅いと溶接入熱が大きくなり、溶接変形などの問題を引き起こす可能性があります。

【裏波溶接(TIG溶接) – 高品質な裏面仕上げのために】

TIG溶接で裏波を出すためには、アルゴンガスによるバックシールドが不可欠です。バックシールドなしでは酸化が進み、不完全なビードとなってしまいます。バックシールドガス中の酸素濃度は1.0%以下が推奨され、約2%を超えると裏波ビードの健全性が損なわれます。

【薄板の歪み防止策(TIG溶接の場合) – 美しい仕上がりと効率的な作業のために】

  • 銅板などでバッキングを行う
  • 溶接近傍を冷却する
  • 高速パルスを利用する
  • 水素含有のシールドガスを使用し溶接速度を速める

近年では、ステンレス鋼の深溶け込み溶接法として、2重シールドトーチを採用したAA-TIG溶接法も実用化されており、より効率的で高品質な溶接が可能になっています。

【私たちがお手伝いできること – 御社のビジネスを成功に導くために】

この記事では、ステンレス鋼の溶接に関する基礎知識から応用技術、注意点までを解説しました。しかし、実際の溶接作業においては、専門的な知識や経験、そして高度な技術が求められます。

私たちは、長年にわたり培ってきた板金加工と溶接の技術を活かし、お客様のビジネスにおける様々な課題解決をサポートいたします。高品質なステンレス溶接はもちろんのこと、最適な材料選定、効率的な加工方法のご提案、そして量産体制の構築まで、トータルソリューションを提供することで、お客様のビジネスの成長に貢献いたします。

ステンレス鋼の溶接でお困りの際は、ぜひ一度私たちにご相談ください。お客様のニーズを丁寧にヒアリングし、最適なソリューションをご提案させていただきます。

【お問い合わせ – まずはお気軽にご連絡ください】

ステンレス鋼溶接に関するご相談、御社のプロジェクトに関するお問い合わせなど、どんなことでもお気軽にご連絡ください。専門のスタッフが丁寧に対応させていただきます。

ステンレス鋼は、優れた耐食性、耐酸性、機械的強度などを有し、
様々な分野で利用されています。特に、SUS304はステンレス鋼の
中で最も一般的な規格であり、全体の65%を占めています。
ステンレス鋼は、化学成分と金属組織上の分類から、マルテンサイト系、
フェライト系、オーステナイト系の3種類に分けられます。

1. マルテンサイト系ステンレス鋼

マルテンサイト系ステンレス鋼は、Feに約13%Crを含有させた
13Crステンレス鋼(SUS403, 410, 410S, 420J1, 420J2, 431など)が代表的です。
SUS431, 440A, 440B, 440C, 416などは、機械構造用鋼と同様に焼き入れにより硬化し、
高硬度、高強度を必要とする用途に用いられます。一方、溶接性は一般的に良くありません。

2. フェライト系ステンレス鋼

フェライト系ステンレス鋼は、Crを16~18%含有するSUS429, SUS430などが代表的です。
耐食性や高温での耐酸化性に優れており、建築内装用、家庭用器具、家電部品などに使用されます。
ただし、溶接割れを起こしやすいという欠点があります。

3. オーステナイト系ステンレス鋼

オーステナイト系ステンレス鋼は、18Cr-8Niを含んだSUS304が代表的です。
ステンレス鋼といえばこの規格を連想するほど一般的で、食器、建築金物、配管など
幅広い用途で使用されています。

3.1 オーステナイト系ステンレス鋼の溶接性

オーステナイト系ステンレス鋼は、炭素鋼と同様に比較的容易に溶接を行うことができます。
しかし、溶接時に高温割れ(凝固割れ)、粒界腐食、応力腐食割れ(SCC)などが発生する
可能性があるため、注意が必要です。

(1) 高温割れ

オーステナイト系ステンレス鋼の溶接時に最も発生しやすいのが高温割れ(凝固割れ)です。
これは、溶接収縮歪みが原因で発生し、割れの形態としては縦割れやクレータ割れなどがあります。
溶接金属中のリン(P)と硫黄(S)の量が多いほど高温割れ感受性は高まりますが、
フェライト量を増やすことで高温割れを抑制することができます。

(2) 腐食

ステンレス鋼は一般的に腐食しにくいと認識されていますが、それはクロム(Cr)が
腐食環境下で酸化し、緻密な不動態皮膜を形成するためです。この不動態皮膜が腐食の
進行を阻止する役割を果たしています。

(3) 応力腐食割れ(SCC)

応力腐食割れは、材料(鋭敏化、不純物など)、環境(温度、塩化物など)、
応力(残留応力、外部応力など)の3つの条件が満たされた場合に発生する現象です。
アノード溶解によって割れが進行する活性溶解型(APC)と、腐食反応によって生じた
水素が原因となる水素脆化型(HE)に大別されます。

(4) 熱影響部の鋭敏化

溶接熱影響部では、炭化物が析出し、粒界腐食が発生しやすくなる現象を鋭敏化といいます。
鋭敏化を防止するためには、溶接入熱を小さくする、低炭素ステンレス鋼(SUS304L、
SUS316Lなど)を使用する、安定化ステンレス鋼(SUS321、SUS347など)を使用する、
溶接後に固溶化処理(1000~1100℃加熱後急冷)を施すなどの対策が有効です。

4. 溶接方法

オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)の溶接方法としては、GTAW(ティグ溶接)、
GMAW(マグ溶接、ミグ溶接)、ろう付け、はんだ付け、スポット溶接、YAGレーザ溶接
などが挙げられます。

TIG溶接

TIG溶接は、精密で高品質な溶接部を形成できるアーク溶接法です。特に、溶接部の美観が
求められるステンレス製品に多く用いられます。しかし、溶接速度が遅く、溶け込みが
浅いという欠点もあります。溶接速度が遅いと溶接入熱が大きくなり、溶接変形などの問題が
生じる可能性があります。

裏波溶接(TIG溶接)

TIG溶接で裏波を出す場合は、アルゴンガスによるバックシールドが必要です。
バックシールドなしでは酸化により不完全なビードが形成されます。バックシールドガス中の
酸素濃度は1.0%以下が望ましく、約2%以上になると裏波ビードが酸化により不健全になります。

薄板の歪み防止策(TIG溶接の場合)

  • 銅板などでバッキングをする
  • 溶接近傍を冷却する
  • 高速パルスを利用する
  • 水素含有のシールドガスを使用し溶接速度を速める

近年では、ステンレス鋼の深溶け込み溶接法として、2重シールドトーチを採用した
AA-TIG溶接法も実用化されています。

参考文献

  • 溶接・接合技術持論
  • ステンレス鋼溶接トラブル事例集

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