【プロが解説】アルミ溶接の基礎知識と高品質な仕上がりを実現する秘訣
【アルミニウムおよびアルミニウム合金の基礎知識】
アルミニウム(Al)およびその合金は、その軽量性、耐食性という優れた特性から、鉄道車両、船舶、低温タンクといった多様な構造物に広く採用されています。純アルミニウムに他の元素を加えることで、強度が向上するだけでなく、加工性、溶接性、耐食性といった特性も変化します。
アルミニウム合金の展伸材は、熱処理の有無によって非熱処理合金と熱処理合金に分類され、さらに添加元素の種類によって細かく分けられます。非熱処理合金は、焼きなましされた軟質材(O材)や、適切な加工硬化状態(H材)で使用されます。一方、熱処理合金は、焼き入れ(T4)や焼き入れ後の焼き戻し(T6)など、それぞれの目的に応じた熱処理を施した状態で用いられます。これらの調質処理は、日本の工業規格であるJIS規格(JIS H 4000)に定められた識別記号によって明確に示されています。
【アルミ溶接で注意すべき高温割れ】
アルミニウムおよびアルミニウム合金の溶接時に注意が必要なのが、高温割れという現象です。高温割れには、凝固割れと液化割れの二種類があります。これらの割れは、溶接金属が凝固する際のデンドライト樹間や結晶粒界における特定の合金元素の偏析、あるいは低融点金属化合物の存在が主な原因となります。
特に液化割れは、多層溶接を行う際に、後から溶接する層の熱によって先に溶接した層の結晶粒界が部分的に溶融し、その状態で応力やひずみが加わることで発生します。アルミニウムは熱膨張率が大きく、凝固時の収縮も大きいため、これが高温割れの発生に大きく影響します。溶接ビードの始端と終端は特に割れが発生しやすい箇所なので、施工時には細心の注意が必要です。
ただし、1000、3000、4000、5000系の合金は比較的割れが発生しにくく、溶接性は良好と言えます。一方、2000、6000、7000系の合金は溶接割れが生じやすい傾向にありますが、適切な添加剤を使用するなど対策を講じることで、その感受性を改善することが可能です。一般的には、溶接割れを防ぐために、母材よりも添加元素を多く含む溶接材料が用いられます。
【アルミ溶接におけるブローホールの発生原因と対策】
アルミニウム溶接金属に発生しやすいのが、気泡であるブローホールです。これは溶接の品質を大きく損なう要因となります。主な原因は水素であり、アルミニウム中の水素溶解度が凝固時に急激に低下することが、ブローホール発生の最大の理由です。加えて、アルミニウムの凝固速度が比較的速いため、発生したブローホールが溶接金属外部へ放出されにくいことも影響しています。
水素の発生源としては、以下のものが考えられます。
- 母材および溶加材の中に含まれる固溶水素
- 母材および溶加材の表面に付着または吸着した水分、有機物、酸化膜
- シールドガス中に含まれる水分
- アーク雰囲気中に巻き込まれた空気中の水分
これらのうち、最も影響が大きいのはアーク雰囲気中に巻き込まれる空気中の水分であり、次いで溶加材表面の水分です。
【アルミニウムおよびアルミニウム合金の適切な溶接材料の選定】
アルミニウム合金の種類によって、最適な溶接材料は異なります。
- 1000シリーズ: 一般的に純アルミと呼ばれる材料で、溶接材料としてはA1070やA1100などが用いられます。熱伝導性が高いため、他の材料よりも若干低めの電流値で溶接することがポイントです。陽極酸化皮膜処理(アルマイト)を施すと、非常に美しい仕上がりになります。
- 2000シリーズ: 銅、マグネシウム、マンガンなどを含む合金で、ジュラルミン、超ジュラルミンとして知られています。溶接時にはクラックが入りやすいため注意が必要です。溶加棒としては、A4043、A4145、A4045、A4047、A2319などが挙げられます。4043、4045、4145、4047はシリコンの含有量(5%~13%)によって区別されます。市場での調達はやや難しい場合があり、一般的にはA4043が流通しています。強度が必要な場合にはJIS Z 3604でも推奨されているA2319が用いられますが、温度管理をしっかりと行う必要があります。A2319はかつて住友電工が製造していましたが、現在は製造ラインからなくなっています。
- 3000シリーズ: 非熱処理合金で、純アルミニウムよりもやや強度が高く、溶接性も良好です。溶接材料にはA5356、A4943が用いられ、用途によってはA4047Aも使用されます。
- 5000シリーズ: 代表的な合金は5052で、中程度の強度を持ち、最も広く使用されています。5083はマグネシウム含有量が多く、非熱処理合金の中では最も優れた強度を持ち、溶接性も良好です。船舶のデッキによく使用されるとされています。溶接材料にはA5356、A5183などが挙げられます。JIS Z 3811のアルミ溶接技能検定では、母材に5083、溶接材料にA5183が用いられています。
- 6000シリーズ: 熱処理合金で、押し出し材や形材などに使用され、強度もあります。6063はアングルやチャンネルなどの構造物に用いられます。溶接材料にはA5356が一般的です。近年、EV(電気自動車)の軽量化の流れから6061などの使用が増えており、ベークハード特性を利用して今後も広く活用されると考えられます。
- 7000シリーズ: アルミニウム合金の中で最も高い強度を持つ亜鉛系合金と、銅を含まない溶接構造用合金に分けられます。熱処理合金としては、優れた継手効率が得られる7N01、7003が溶接構造用材料として鉄道車両やオートバイフレームに用いられます。溶接材料としてはA5356、A5183が使用されます。
溶接材料の選択にあたっては、必ずJIS Z 3604に示されている組み合わせ表を参考に、適切な組み合わせを適用してください。組み合わせを誤ると、溶接部に割れが発生したり、必要な機械的強度が確保できなかったり、耐食性が低下するなどの問題が生じる可能性があります。
【高品質なアルミ溶接を実現するためのTig溶接施工法】
アルミニウム合金の溶接施工においては、SS(一般構造用圧延鋼材)やSUS(ステンレス鋼)以上に注意すべき点があります。ここでは、Tig溶接を例に、より良い溶接結果を得るための重要なポイントをご紹介します。
- 材料の種類、識別表示などを明確に理解し、適切な溶接材料を選定する。
- 乾燥した清潔な材料を使用する。
- 適切に保管された溶接材料を用いる。
- シールドガスの流れが妨げられないように注意する。
- 母材の接合部分を丁寧に洗浄する。
- ステンレス製のブラシで接合面を強くこすり、表面の酸化皮膜をしっかりと除去する。
- アセトンやアルコールなどの溶剤で接合部を清拭する。
これらの基本的な作業を丁寧に行うだけでも、良好な溶接品質を確保することができます。さらに、作業環境を常に清潔に保ち、一つ一つの工程を丁寧に実施することで、より高品質な溶接結果が得られるでしょう。
【ブローホール対策の新たなアプローチ】
長年、アルミ溶接におけるブローホールの問題に悩まされてきましたが、最近、ガスライン用とトーチインナー用のパージホースを交換することで、溶接欠陥を大幅に低減できるという報告があります。
弊社でも、まずガスライン用のホースを交換しましたが、現在トーチインナー用のホースはまだ交換できていない状況です。近日中に交換を予定しています。この対策がうまくいけば、溶接後の補修作業が減り、不良品の流出を抑えることができると期待しています。
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