アルミ溶接は「ジィー……どかん」が一番怖い|他社が断る歪み・割れに向き合う精密板金
アルミ溶接は、正直に言って職人が一番嫌がる仕事です。
トーチを当てても、熱は逃げるばかりで、なかなか溶けない。
ジィー……と我慢の時間が続き、
「そろそろか」と思った瞬間、どかんと一気に溶け落ちる。
薄板なら、そのまま穴が空いて冷や汗をかく。
アルミは、そんな“気まぐれ”を平然とやってきます。
だから多くの現場で、「アルミは難しい」「これは無理」と断られてきました。
それでも、私たちは逃げません。
溶接管理技術者1級、IIW IWP(国際溶接プラクティショナー)の資格を持つ現役職人が、アルミの“癖”と真正面から向き合います。
アルミ溶接は、実はコツ(=成立条件)さえ掴めば、怖さは「管理できるリスク」に変わります。
熱の入り方を先読みし、溶接工学の理屈で裏付ける。
マニュアルに頼らず、歪みを抑え込む――それが私たちのやり方です。
他社で断られた図面こそ、ぜひ一度見せてください。
1. 「ジィー……どかん」が起きる本当の理由(アルミ特有の熱挙動)
この現象は“職人の勘が悪い”のではなく、アルミが持つ物性と継手条件が原因です。ポイントは次の3つです。
- 熱伝導が高い:熱が母材に吸われ、最初は溶けにくい(ジィー…)。そこで電流を上げがちになり、ある瞬間に限界を超えて一気に溶け落ちます(どかん)。
- 溶融金属が流れやすい:溶けた瞬間に“支え”が無いと、溶け落ち(バーンスルー)になりやすいです。
- 表面酸化膜の影響:アルミは酸化膜が強く、清浄度が低いとアークが安定せず、局所的な過入熱や欠陥の起点になります。
つまり、怖いのは「アルミが気まぐれ」なのではなく、成立条件(熱の入れ方・支え方・清浄度)を外した瞬間に、結果が急激に悪化する点です。ここを“仕様として管理”できれば、アルミは安定します。
2. アルミ溶接で起きやすい不良は「3系統」で整理すると早い
アルミの手戻りは、症状が違っても原因が近いことが多いです。現場では次の3系統に分けて考えると、対策の打ち手がブレません。
- ① 溶け落ち・穴あき(バーンスルー):過入熱、支え不足、ギャップ過大、端部の熱だまりが起点
- ② 溶け込み不足・未融合:入熱不足、酸化膜、トーチ角度、開先形状・ルート条件が起点
- ③ 割れ・歪み(反り/曲がり):拘束・順序・熱集中、過拘束、冷却条件が起点
この3系統は独立ではありません。例えば「歪みを嫌って拘束を強くし過ぎる」→「割れ」へ繋がる、という連鎖も起きます。だからこそ、入熱だけでなく“治具・順序・清浄度”もセットで設計する必要があります。
3. 「ジィー……どかん」を止める実務:入熱を“下げる”より“制御する”
アルミ溶接の入熱管理は、単に電流を下げる話ではありません。溶かす場所・タイミング・量を、工程として制御します。実務で効く要点は次の通りです。
- ギャップ管理(最重要):ギャップは“穴あき”の直結要因です。仮付け前に端面・曲げ精度・当たりを詰め、溶接で隙間を埋める前提を捨てます。
- 熱だまりを作らない:連続で攻めるほど局所過熱になります。区間分割・スキップで熱を散らし、冷え待ちを工程に組み込みます。
- 端部は別物として扱う:端部は逃げ場が無く、溶け落ちやすいです。端部専用の条件(移動速度・止め方・当て方)を持ちます。
- “支える”設計:薄板は、裏当て(当て板)・銅当て・受け治具で溶融金属を支えるだけで安定します。
特に薄板は、「溶かしてから考える」では遅いです。溶けた瞬間に形状が崩れるので、溶ける前に支え・順序・拘束のルールを決めます。
4. 歪み・反りを“結果として”抑える:治具と順序が9割です
アルミ溶接で一番相談が多いのは、「溶ける/割れる」よりも、実は歪み(反り・曲がり)です。
図面寸法に入らない、組立で穴位置が合わない、蓋が浮く。現場ではこの手戻りが一番コストになります。
歪み対策は、優先順位が重要です。「後で叩いて直す」が前提になると品質が不安定になります。基本は次の順番です。
- 入熱の分散(区間分割・スキップ・冷え待ち)
- 順序で相殺(対称・交互・中心→外、外→中心の使い分け)
- 治具・拘束で再現性を作る(押さえ方をルール化)
- 最後に最小限の歪み取り(やり過ぎない)
治具のコツは“全部を押さえない”ことです。全面ベタ押さえは、一見良さそうに見えて、熱収縮の逃げが無くなり、割れ・波打ち・局所座屈の原因になります。
拘束は必要な方向だけ効かせ、熱と収縮が動ける逃げを残しつつ、基準面・基準穴は確実に守る――これが現場で安定する治具設計です。
5. 依頼前に揃うと“失敗確率”が落ちる情報(発注側の判断材料)
アルミ溶接は「やってみないと分からない」を減らせます。依頼時に次の情報が揃うと、工程設計が早く、手戻りが減ります。
- 材質・調質・板厚(A5052/A6061、T6等、板厚)
- 要求精度(歪み許容、穴位置、公差、基準面)
- 外観要求(ビード外観、研磨、塗装前提、漏れ要求の有無)
- 数量と工程制約(1点試作/小ロット、納期、溶接後加工の有無)
「図面が固まっていない」段階でも構いません。写真・概略寸法・用途・要求精度が分かれば、決める順番(熱・治具・順序)を整理して前へ進められます。
FAQ|アルミ溶接(ジィー……どかん/歪み・割れ対策)
よくあるご質問
Q. 「ジィー……どかん」は職人の腕の問題ですか?
A. 腕だけの問題ではありません。アルミは熱伝導が高く、条件を上げた瞬間に過入熱へ振れやすい材質です。ギャップ・支え・順序を工程として管理すると、再現性が出ます。
Q. 歪みは完全にゼロにできますか?
A. 現実的には「ゼロ」ではなく、用途と公差に対して「許容内に収める」設計になります。重要なのは、入熱と拘束を管理して“結果を再現可能”にすることです。
Q. 図面が未確定でも相談できますか?
A. 可能です。写真・概略寸法・用途・要求精度が分かれば、決める順番(材質・拘束・順序)を整理して前へ進められます。
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免責事項:
本記事は一般的な技術情報と現場知見に基づく解説です。実際の最適条件は、材質・板厚・形状・拘束条件・要求品質により変動します。安全対策(換気・保護具等)を徹底のうえ、必要に応じて専門家へご相談ください。
アルミ溶接の「ジィー……どかん」や歪みは、運ではなく工程で潰せます。
仕様が固まっていない段階でも、成立条件(熱・治具・順序)から整理できます。
※図面・写真があれば、確認が早くなります
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