【気密溶接の設計論】「見た目は良いのに漏れる」を防ぐ工学的アプローチ|検査基準と入熱管理

溶接技術百科シリーズについて

株式会社上村製作所が運営する「溶接技術百科シリーズ」では、アルミ・チタン・ステンレス・ジュラルミンなど、主要金属の溶接に関する専門知識と、現場で役立つ実践ノウハウを体系的に解説しています。
航空宇宙・レーシング部品・研究開発試作など、高精度を要求される現場で培った実績をもとに、各材料の特性や品質管理のポイントをわかりやすく紹介します。

気密溶接の世界で一番厄介なのは、「ビード外観は綺麗なのに、検査で漏れる」という事態です。
水や油、空気はもちろん、真空域やトレーサガス領域になるほど、目に見えない微小欠陥がそのまま不具合になります。
つまり、「腕の良い溶接」=「漏れない保証」ではないという点が、発注・設計の現場で最も重要なポイントとなります。

本ページでは、研究所・設計開発部門の皆様に向けて、漏れのメカニズムを工学的に分解し、「仕様書に盛り込むべき工程設計と検査基準(握り方)」を整理します。
「とにかく漏れないで」では品質保証になりません。保証の定義(合否・単位・検査方法)を先に固めることが、最短で事故と手戻りを減らす方法です。


1. まず合意すべき「保証の定義」|“漏れない”を仕様に落とす

気密は、製作技術だけでなく検査設計(合否の決め方)がセットで成立します。設計段階で、最低限以下を合意しておくと、品質もコストも安定します。

  • 媒体:空気/水/油/溶剤/不活性ガス/真空 など
  • 使用条件:温度域(常温/高温/低温)、圧力(正圧/負圧)、振動・脈動の有無
  • 許容リーク:「ゼロ」か「許容値あり」か(単位例:Pa・m³/s 等)
  • 検査方法:水張り/発泡/差圧・圧力降下/トレーサガス(ヘリウム等)
  • 合否判定と記録:誰が、どの条件で、何を記録して合格とするか

設計者向けの結論:
「漏れなきこと」という文言だけでは、製作側は“どの検査で、どこまで保証するか”を判断できません。
結果として、過剰品質(コスト増)か、検査不足(不具合流出)のどちらかに振れやすくなります。
保証の定義(媒体・条件・検査・合否)を先に固定することが、最短で成功率を上げます。

2. 漏れのメカニズム|原因は「3つの系統」に分類できる

「漏れた」という結果は同じでも、成因により対策は全く異なります。まずは敵を分類して、対策の打ち手を間違えないことが重要です。

  • ピンホール/ブローホール(気泡)
    原因例:油分・水分・酸化皮膜、シールド不良、閉じ込めガス
    溶融金属中にガスが閉じ込められ、表面まで貫通した微小トンネルとなって漏れを引き起こします。
  • 溶け込み不足/未融合(物理的隙間)
    原因例:ルートギャップ不適、入熱不足、トーチアクセス制約、姿勢制約
    構造的には繋がって見えても、微細な隙間が残り、加圧・負圧でリーク経路になります。
  • 割れ・クレータークラック(収縮損傷)
    原因例:拘束過大、冷却速度の管理ミス、終端処理不備、入熱偏在
    凝固収縮の応力に耐えきれず、ミクロ亀裂が発生します。特に薄板・拘束が強い構造で顕在化しやすい不具合です。

3. 設計(DFM)で漏れを減らす|“作りにくい形状”が漏れを生む

気密は製作だけでなく、設計時点の成立条件が品質を大きく左右します。以下は、現場で漏れトラブルになりやすい典型論点です。

設計で押さえるべきポイント(例)

  • トーチアクセス:溶接姿勢が無理な場所は、未融合・欠陥リスクが上がります(溶接順序も含め要検討)。
  • 閉じ込め容積:内部に空気が逃げない構造は、ブロー・ピンホールの原因になります(逃がし/先行溶接の検討)。
  • 継手形状:気密面に段差・隙間が残る設計は、検査で不利になります(突合せ・ルート形状の整理)。
  • 熱の逃げ道:熱だまりが集中する形状は、割れ・歪み・クレーター欠陥が出やすくなります(放熱・治具前提の検討)。

4. 表面制御|気密は「溶接する前」に決まっている

気密溶接では、電流条件よりも清浄度(クリーネス)が支配的なケースが多くあります。
特にアルミや薄板SUSは、目に見えない油膜・酸化膜が残るだけで、ブローホール発生率が跳ね上がります。

弊社では、気密・真空領域の製作経験を踏まえ、脱脂洗浄・乾燥・酸化膜除去などを工程として組み込み、再現性を担保します。
「汚れたまま溶接して、後から埋める」ことは原理的に不可能である、という前提で工程を設計します。

5. 工程設計|確率論ではなく「論理」で漏れを潰す

「職人の勘」を否定はしませんが、工業製品としての再現性を担保するには、管理点(変数)を固定し、協議事項を明確化する必要があります。

気密を安定させる管理ポイント

  • ルートギャップ管理:“穴埋め溶接”を前提にせず、均一な溶け込みが成立するFit-upを作る。
  • 入熱の上限制御:過熱で組織・酸化・歪みが増える領域に入れない(薄板ほど重要)。
  • 熱だまりの分散:連続溶接を避け、溶接順序・分割で収縮を分散し、割れ・歪みリスクを下げる。
  • 終端(クレーター)処理:終端のくぼみ・微小割れはリークの起点になりやすい。減衰制御・追い盛りで確実に潰す。
  • 治具と放熱:拘束と放熱(ヒートシンク)をセットで設計し、変形・バーンスルー・欠陥を抑える。

6. 検査の設計|検査方法は“感度”と“合否の明確さ”で選ぶ

気密の保証は、検査の選び方で強度が決まります。
「とりあえず水張り」ではなく、用途・リスク・要求リークに合わせて、検査方法と合否基準(記録)を設計段階で合意することが重要です。

目的 代表的な方法 合否の考え方(例) 注意点
粗大漏れの排除 水張り/発泡 目視で漏れ/泡の有無 定性的になりやすい。条件(圧力・時間・温度)を固定しないと再現性が落ちる。
微小漏れの管理 差圧/圧力降下 圧力変化(時間当たり)で判定 温度・容積・治具密封の影響が出るため、試験治具と条件の設計が要点。
真空・高要求領域 トレーサガス(ヘリウム等) リーク量(単位例:Pa・m³/s)で判定 設備・段取りが必要。要求リーク量と試験法(真空法/スニファ等)を先に合意する。

図面不足・仕様未確定でも大丈夫です。
「決める順番」を整理し、割れ・歪み・段取りの論点を見える化します。

写真(全体+アップ)と、困っている症状だけでもOKです。

7. 依頼時に整理すべき「5つの仕様」|手戻りを防ぐチェックリスト

手戻りを防ぎ、最短納期で品質を作り込むために、お問い合わせ時に以下の情報があるとスムーズです。

  • ① 漏れ媒体:空気/水/油/特殊ガス/真空 など
  • ② 使用環境:温度・圧力(正圧/負圧)・振動の有無
  • ③ 許容リーク:ゼロ要求か、許容値を設けるか(単位・考え方)
  • ④ 検査と合否:方法、試験条件、判定者、記録の要否
  • ⑤ 母材・継手形状:材質、板厚、継手(突合せ/隅肉等)、溶接アクセス

FAQ|気密溶接(漏れ対策)に関する技術Q&A

Q. ビード外観が綺麗なら気密は取れますか?

いいえ、外観と気密性はイコールではありません。表面が美しくても、内部にピンホール/未融合/微小割れがあれば漏れます。
そのため用途に応じて、検査方法と合否基準(保証の定義)をセットで決めることが重要です。

Q. 検査まで対応できますか?

はい、対応可能です。水張り・発泡・圧力変化(差圧)など仕様に応じて選定します。
ヘリウムリーク等の特殊検査は、設備条件と合否基準を合意のうえで実施します。

Q. 図面に「気密」しか書かれていません。どう進めますか?

よくあるケースです。媒体/圧力/温度/許容リーク量/検査方法(判定者含む)をヒアリングし、
過剰品質にならず、かつリスクを避ける“現実的な保証の定義”をご提案します。

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免責事項:
本ページは一般的な技術情報と現場知見に基づく解説です。最適条件は、材質・板厚・形状・拘束条件・要求品質・検査条件により変動します。
実案件では、図面・使用条件・検査基準を踏まえて成立条件を整理することが重要です。
詳細については 「免責事項」ページをご確認ください。

図面不足・仕様未確定でも大丈夫です。
「決める順番」を整理し、割れ・歪み・段取りの論点を見える化します。

  • 現状写真(全体+溶接部アップ)
  • 材質・板厚(不明なら推定でもOK)
  • 困っている症状(漏れ/割れ/歪み/ブローホール等)
  • 求める条件(気密・精度・外観・コスト・納期の優先順位)

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